【時期→本編(5)の後ぐらい】
行商の旅から帰郷したウィンスは、馬車から降りて早々、自警団員のダンに見つかり、月夜猫亭に連れて来られていた。
混雑する店内で何とか席を確保し、銘柄もよくわからない葡萄酒を一気に胃へ流し入れる。
「安くて質が悪くても故郷で飲む酒が一番美味い!」
「そりゃよかったな。お疲れ」
グラスを鳴らし、本日何度目かの乾杯。
ダンと知り合った切っ掛けは、少年の頃、崩れかかってきた古い塀の下敷きになりそうになっていたところを、任務中の彼に助けてもらったことだ。以来、街ですれ違うと声をかけられるようになり、時々立ち話もするようになった。行商になれたのも、ダンからナジへの口利きがあったからだ。
ウィンスにとって彼は恩人であり、突然の飲みの誘いに文句は言うが、決して断ったりはしない。
空になったグラスへ、ボトルから手酌する。
「疲れたのは疲れたけど……。前よりはマシ」
「前……ってことはナジさんと同じチームのとき? やっぱりボスと一緒だと緊張する?」
「緊張したって、ナジさんと行けるのは嬉しいよ。すごく勉強になる。でも、毎回いらないのまでくっついてくるだろ。あいつが一緒ならもう二度と行きたくない」
「ああ、あの子ね。なんで? 控え目で害がなさそうじゃん。いい子そうだし」
「あいつがいると、ナジさんはあいつに付きっきりになって……」
「子供っぽいこと言うなよ。一人前に育てなきゃなんないんだから仕方なくね?」
「それは不満だが理解できる。けど、夜寝られないのが、ほんとにほんとにほんとに……ものすごくきつい」
「あの子イビキでもうるさいの?」
「イビキをかくのか知らん。こっちは二人部屋なのに、ほとんど同じ部屋にいたことないからな。あいつは毎晩隣の部屋」
「ああ、なるほど。そういうこと」
「あー、思い出しても腹が立つ。はっきり苦情を言ってやってんのに、全然俺に気を遣わないんだぞ。毎晩うるさくて寝らんないし、朝もそれで起こされることあるし。あろうことか開店中に裏でいちゃついてたこともあったし。あいつら頭おかしいんじゃねえの」
「あいつらって言っちゃったら、君の雇い主も入っちゃうよ……」
「お前も同じ状況に追い込まれたら、そう言いたくなるよ。俺の前にあいつらと同じチームだったやつも同じこと言ってた。そいつは苦情も言えずに黙って耐えてたみたいだが」
「確かに嫌かもな。一回くらいなら面白がって聞き耳立てるかもしれないけど、毎晩となると」
「あいつめ。いったいどうやってたらし込んだんだよ。今はナジさんの家にまで転がり込んでるらしいじゃん。厚かましいにもほどがある」
「それは別にいいだろ。誰に迷惑かけてるわけでもないんだから」
「そうだけど、ムカつくんだ。ああ、もう!」
「ウィンスもナジと仲良くしたいんだね。でもまあ、略奪はお勧めしないかなあ」
「何でも色恋に結びつけるな。俺はそういうんじゃない」
「そうだね。そういうことにしとこう」
「ニヤニヤしてこっち見るな」
「ごめんごめん。さあ、飲んで」
「おう」
ボトルに残った酒を注いでくれる。まだまだ足りない。さて、今日は何本空けることになるだろう。