【時期→本編(1)と(2)の間/拾われ猫の内容も関係してきます】
やるべき家事が終わり手隙の時間。居間の窓からぼんやりと外を眺めていたリタは、アルの声で我に返った。
「リタ」
「……え、ん?」
「どうしたんだい。さっきから心ここにあらずって感じだけど」
「ああ、うん、ゼノのこと考えてた」
「帰っちゃったの寂しい?」
「うん……。それもあるけど、僕、自分が情けないよ。自分のことしか考えてなかった。故郷の皆は心配してくれてるだろうな、とは思ってたけど、まさか二年もさ、ゼノもナジさんも探し続けてくれてたなんて思わなかったんだ」
「リタは大変な目に遭って、ここでの暮らしを築いていくのに精いっぱいだっただけだよ」
「そうだけど、僕がゼノの立場なら、きっと同じことをした。少し想像すればわかることなのに……」
「もしも想像できていれば君はどうした?」
「……まあ、手紙を送る手段がない以上、何も出来ないんだけど」
「そうだよね。なら、気を病んでも仕方ない。リタがここで頑張ってきたの、僕は知ってるよ」
「アルはほんとに僕のこと甘やかすよね」
「想像できていなかったのは僕も同じなのかもしれない」
「アルも?」
「ああ。君は愛されて育った子なんだって、見ていてわかっていたはずなのに、突然いなくなった君を探し続けている人がいるってこと、想像できなかった。君をここに留め続けることが、彼らから君を奪うということになるってことも」
「アルはいいんだよ、アルは。故郷での僕のこと知らないんだから」
「でも、少しだけ申し訳なくなってね。君みたいないい子を独り占めしちゃってることが」
「それは僕自身が望んだことだよ」
「……そうだね。君がここに留まってくれてよかった」
「当たり前じゃない。今更アルと離れるなんて考えられない」
彼にすり寄り、その腕にぴたりとくっつく。
リタの頭をぽんぽんと軽くたたき、彼は問う。
「で、どっち?」
「何が?」
「君の初恋の人。孤児院で一緒だった子で、皆のお兄さんみたいな感じだったっていう」
「覚えてたんだ……」
「彼らはどちらも孤児院出身だって言ってたよね。二人とも君より年上だし」
「どっちだと思う?」
「質問返しか。そうだなあ。灰色の子との方が明らかに親しげだったけど、白の方が兄貴分っぽかったよね」
「あの人は兄貴分っていうよりボスだよ、街のボス」
「じゃあ、正解は灰色の方か」
「あ、また言っちゃった……。面倒見良くて何にでも根気よく付き合ってくれるから、年下の子に慕われてるんだ。僕もその中の一人」
「本当にそれだけだったのかな」
「どっちでもいいじゃん、そんなこと。僕は今ここにいて、アルと一緒にいるんだもん」
「まあ、そうなんだけどさ」
視線を交わし、唇をあわせる。
「……ありがとう。ここを選んでくれて」
「こちらこそ」
たとえ故郷が恋しくとも、ここで生きていくと決めたから。