(四)冬——祝言

「んー!」
 まだ待って、と言いたいが、咥えているので無理だ。いったん口を離す。
「だめ!」
「一緒にすればいい。私も早く妻を愛したいのだ」
「……もう」
 仕方ないな。こちらの番だけど、一緒だったら、まあいいか。
 容易く指が飲み込まれる。二本くらいならすぐだ。柔らかな内側をくちゅくちゅと掻き混ぜて——。
「蜜が溢れてくる。蓮華の蜜か。旨そうだ」
 愛液まみれの指をぺろりと舐め、満足げに頷く。
「うん、甘い、気がする」
「やだー」
「何度も直接すすっただろう」
「それでも恥ずかしいものは恥ずかしい」
「慣れてくれとしか言いようがないな。……邪魔だな、外すぞ」
 下帯をぱぱっと器用に取り去る。
 今度は濡れそぼった指を尻へやり、もう一つの穴の表面を撫でた。
「おお、賢いな。自ら口が開いた。ここも大分慣らしてきたつもりだが、さて」
 愛液のおかげでするりと入る。浅い箇所を出し入れしながら、ときに窄まりの口を広げるように指をぐるぐる回す。
「どうだ」
「大丈夫……」
「こちらは初めてだからな。柔らかくしていこうな」
「今日はここにも入れるんだよね……? 初夜はどっちでもしたいって言っていたでしょう」
「できればでいい。今日でなくてはならんことはない」
「おまじないをすればいいよ」
「あの時は焦りすぎた。今は互いの身体だけで感じ合いたいのだ」
 目合いを重ねるうち、ここでも快感を得られるよう丁寧に教えられた。今ではどちらの穴を弄られるのも好きだ。
 陰茎に触られていなくても達してしまいそうで、口淫に集中する。上の方、続いて下の方もどちらも。
 さすがに顎に疲れを感じてきたころ、指が抜けていったので、レンも放す。彼が出ていった中が寂しい。
「そろそろか」
「ねえ、スイ……」
「わかっておるよ」
 布団まで抱えて運ばれ、仰向けで横になった。
 しどけなく四肢を投げ出して、眼差しで彼を呼ぶ。乗りかかってきた彼の顔が真上に来て、唇が合わさる。お願い、また中にほしい。足先で彼の脹ら脛をなぞって催促する。
「スイぃ……、ん」
 胸元をまさぐっていた右手が乳首を探し当てて摘まみ、濡れた唇が頬、耳元、首筋へと辿っていく。味見をされている気分だ。早く食べてほしいのに。
 彼の羽織った襦袢を引っ張る。
「スイ、スイったらぁ」
「そう急かすな」
 起き上がる彼の身体が離れていく。ふかふかの枕を引き寄せると、彼はそれをレンの腰と布団の間に挟み込む。尻を使うときはこうした方が楽らしい。
 しっかりとレンに足を開かせると、女陰にも後孔にも張り詰めた先端が宛がわれる。いよいよだ。今日はこれまでよりもっと繋がれる。
 まず膣口に先っぽが押し込まれ、次に後孔。
「来る……」
 開かれる。壁を広げ、じわじわ進む。どちらの穴も、となると、腹の中全てを埋められていくようで、少し苦しい。
「ちゃんと息をして。深く吸って、長く吐く。……そう、いいよ」
 深呼吸を繰り返して、少しずつではあるが受け入れていく。
 ——あれ、これは思ったより……。
 どちらのいい場所も双方向から圧迫されているような感覚。甘美な痺れが足先から頭のてっぺんまでを駆け、たまらず背を反らす。
 まずいかもしれない。想定外の奔流が押し寄せそうな。
「あっあっ……」
 奥に彼を感じた途端、薄皮一枚で堰き止められていた熱が溢れる。
「うあ……っ」
 いつもは深く沈んだ場所から鋭い快感が湧き上がって、びくびくと震えた。
「……中、すごい痙攣だな」
「すごい、これ……。全部いいよぉ」
「それはよかった。なら動いてよいな」
 ずるずる抜けていく。
「待って、まだ……」
「気持ちいいならよいではないか」
「……ひっ」
 突き上げられる。感じる箇所が一度に強烈に刺激されて、感覚を受け止めきれない。
「スイ、だめ、変……、どうしよう、おかしい……っ」
「おかしくなればよい。私の手の内で乱れていく様……、なんと愛いことか」
 抽挿の連続に声が抑えられない。宴会の騒ぎがこちらに聞こえているということは、こちらの声も聞こえる可能性があるということ。
 ——障子、今からでも締めた方が……。
 そう考える少しばかりの余裕も塗りつぶされる。
 振り乱され、何度果てたかわからない。
 果てるごとに本能に忠実になっていく身体は、繋がり、求められ、自分を捧げられることを、何よりも悦んだ。
「……」
 気づけばレンの腰を掴んで深く繋がったまま、スイは動きを止めていた。
 出ているなとぼんやり思いながら、ぐったりと射精の終わりを待つ。目合いの後へとへとになるのはいつものことだが、疲労感がその比ではない。
「……あ」
 抜けていく。両穴からどろりと溢れ出したものの多さに驚いていると、無言で身体を裏返しにされた。
「ん……?」
「まだ治まらん」
「……」
「いいのだよな。初夜だからな」
 子種で満たされた中へ、再び挿入される。
「ああ、いい……。朝まで離しとうない」
「朝まで……」
「朝になるまでが初夜だろう。頑張ろうなあ。早く子が出来るとよいな」
「……」
 交わるほどに身体が変化し、神の子を宿せる胎になる、と何日か前に聞いた。つまりはたくさんすればするほど早く懐妊するわけだが、空が白み始める気配すらないのに、朝までずっと……?
 ああ、でも気持ちいいなあ。気持ちいいならいいか。赤ちゃん、欲しいし……。
 ふやけきった頭ではそんな風にしか考えられず、身を任せてただ鳴いた。

 いつ眠ったのかは覚えていない。枕元でぼそぼそ話し声がして、目を覚ます。
「ですから、やはりほどほどにされた方がよろしいかと」
「しかし、レンも乗り気だったのだぞ」
「たとえそうだったとしても、年長者が気遣ってしかるべきです」
「まあ……、それはそうであろうな」
 スイとイチの声だ。目を開けて身じろぐと、すぐにスイは気づいた。
「おお、起きたか。気分はどうだ」
「ん……、悪くはないよ」
 上体を起こして目を擦る。日はもう随分高いようで、室内でも眩しい。怠くはあるが、寝過ぎで身体が重いという感じだ。
 イチは肩から上着を掛けかけてくれる。
「池の水で身体を清められたようなので、具合の悪さはないと思いますが……。長様、だからいいと言う話では」
「わかったわかった。お前がそんなに口うるさいとは知らなかった」
 やれやれというように、スイは息を吐く。レンのことは彼が洗ってくれたのかな。道理ですっきりしているはずだ。
 まだ寝惚け頭で、昨夜の余韻を引きずっている感じがし、すり寄っていって彼の腹の辺りに抱きつく。
「ほら、ほら、なあ、可愛いだろう」
「左様でございますね。ええ、まことに」
 スイは何やら自慢げにしていたが、イチにさらりと受け流されていた。多忙なイチは腰を上げる。
「さて、私は朝餉の準備を。長様もご一緒でよろしいですか」
「頼む」
「かしこまりました」
 一礼してから、きびきびと無駄のない動きで退室した。
 朝ご飯は精のつくものばかりが並んでいた。昨日は多分聞かれていたのだろうな。恥ずかしすぎて転がり回りたい気分だったが、「この屋敷で音を漏らさぬようにするくらい造作もないことだから、そう心配するな」と笑われた。
 ああ、よかった。誰に聞かれるのも嫌だけれど、子供のチョロに聞かせるのが一番嫌だったから。
 朝ご飯を済ませた後は、誘われて池で泳ぐことになった。かなり深いらしいので、スイに手を持ってもらいながらだ。
 どこまでも澄んだその水は、肌当たりが柔らかく、温度も冷たすぎず、いつまでも浸かっていたくなるくらい心地いい。
「この水、どこか川の水と違うような……」
「よくわかったな。この池に湛えられているのは霊水だ。どんな病人も怪我人もたちどころに治す」
「へえ。いかにも神様の住処という感じだ。ということは、水浴びついでにちょっと飲んでいたら、風邪を引かなくなるのか」
「そうだな。まあ、水浴びなどせずとも、そなたの身体はだんだん変化していっているから、確実に病には強くなっておる」
 いまいち実感がないな。力が漲ってくるとか、そういう感じがあればわかりやすいのに。体感としてはまったく普段と変わらない。
 しばらく手繋ぎで泳いでみて、大丈夫そうだったので、手を放して泳ぐ。底がどうなっているのか気になって潜ってみたが、辿り着かず、息が続かなくてやむなく浮上した。
 今日は水遊びをして、あとは何をしよう。レンは母に習って仮名の読み書きはできたが、それではあまり多くの書物は読めないので、ここに来てからチョロと真名の勉強も始めていた。それをするか、屋敷の間取りを頭に叩き込むために、掃除をしながら探索するか。
 スイが山から持ってきてくれた家で、彼と話をした日から、自分は何をすべきなのか日々考えていた。まだ答えは出ていないが、やりたいことの候補はいくつか挙がった。
 字の勉強をして書物をたくさん読むこともそうだし、この屋敷に慣れることもそう。ここには珍しい野菜もあるから、それをもらって漬物を作りたいし、自分の分も彼の分も普段着を縫いたいし、それから——。
「スイ、覚えているかな。前に言っていたこと。色んな場所を旅したことがある、私と来るか、どこにでも連れて行ってやる……って」
「ああ、確かに言ったが」
「あれは今でも有効?」
「もちろん。行きたいところでもあるのか?」
「特にここというところはないけれど、僕も全然知らない場所に行ってみたい。今まであの山をほとんど出たことがなかったから」
「いいぞ。いつがいい。今からか」
「いや、今じゃなくても……。いつでもスイが暇なときで」
「私はいつでも暇だし、いつでも忙しい。つまりいつ行ってもいい」
「……?」
「さて、どこがいいかな。人の世は冬だから、南の方がいいか」
「冬? まだ秋だと思うけど」
「ここは人の世とは時の流れ方が違うのだよ。気温も一定に保っているし、ここにいるとどうしても感覚がずれてくる」
「僕も寒いのは好きじゃない。あったかいところがいい」
「承知した」
 色々とやりたいことをしてみて、「すべきこと」はそれから探そう。時間はたくさんあるのだから。
 大好きなあなたと、これからも。

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