(1)コーヒーゼリーには生クリームをご所望

 時刻は深夜一時過ぎ。友達と通話をしながらゲーム世界を冒険した後、シャワータイムを終えたらこの時間。
 現実世界の夜の気配は曖昧で、ついつい就寝時間が遅くなる。一人暮らしをしていると注意してくれる人がいないから、自分で気をつけないと。また講義で居眠りしてしまう。
 お決まりの反省をしつつ、ドライヤーを止めた朝陽(あさひ)の耳に、ドンドンという何かを——ドアを叩いているような音が届く。この部屋ではない。隣かな。
「うっさいなあ……」
 しばらく待っても鳴り止まない騒音。洗面所からでは内容までははっきりと聞こえないが、何事かを叫んでいるような声もする。
「なに、借金取りでも来とんの?」
 どうにも気になって、玄関に出てみる。最近何かと物騒なので、ドアは開けず、そっと外の気配を伺う。ドアを叩く音に混じって、今度は喋っている内容が明瞭に聞き取れた。
「あーちゃん、あーちゃん! おるんやろ? なんで開けてくれへんの? あーちゃんってばー」
 それは、大いに聞き覚えのある男の声。さっと血の気が引く。まずい、これは非常にまずい。
 外の男は続ける。
「あーちゃん、エッチしよ、エッチ! あーちゃん! いっぱい好きなとこ舐めたげるからぁ。好きやろ、エッチ。エッチしょーやー!」
「あの阿呆……!」
 きっと酔っ払ってへべれけになっているに違いない。正直無視したい。だが、あのままあれを放置するのは、マンションの隣人様方に申し訳無さ過ぎる。
 結局、良心が勝ち、ドアを開けた。酔っぱらい迷惑男はこちらを向いて、いつもより微かに赤らんだ顔でへらっと笑う。
「あーちゃんやー。あれ、なんでそっちにおるん? お隣さんちで遊んでたん?」
「こっちが俺の部屋や! ええから、ゆーくん、はよこっち! 通報されるで!」
 突っ掛けを履いて玄関を出、男を捕獲。強引に引っ張って自分の部屋に入れた。
 きっちり施錠した後、深く深く溜息をつく。
「ああー、もうすでに通報されてるかもしらん……。真夜中に卑猥なこと喚き散らす男にドア叩きまくられるとか、めっちゃ怖いやん……。俺やったら引っ越し考えるわ」
「あーちゃーん」
 事の深刻さを欠片も理解していない呑気なこの酔っぱらい——ゆーくんこと宮貴(みやたか)悠宇(ゆう)は、あーちゃんこと朝陽の後ろからべったりと抱きつき、頭に頬を擦りつけてくる。
「あーちゃん、あーちゃん、可愛い。相変わらずのコンパクトサイズ」
「ゆーくんがでかいだけやろ! なあ、ちょっとは反省せえや」
「怒ってるー、あーちゃん、怒ってるー」
 何が面白いのかケラケラ笑っている。こんなの相手にしていられない。渾身の力で振り払い、一人で室内へ入っていく。
 居間までついてきた悠宇は、懲りずにまた抱きついてきた。随分ご機嫌ちゃんのようだ。
「あーちゃん、ちゅーしよー」
「酒くさっ! 離せ」
「嫌や、ちゅーする」
「わーっ」
 形だけでも抵抗を試みてみたが、元々の体格差があって容易に抑え込まれ、強引に唇が塞がれる。当然のように舌が侵入してくるのもセットで。
 絡まる舌は熱くて、口の中が酒の匂いでいっぱいになって、こちらまで酔いそうだ。受動飲酒させられている気分。それに、酒より嫌いなこのにおい……。
「やめえって!」
 胸を強く押し、どうにか彼との間に隙間を作る。
「臭いて言うてるやろ」
「妖怪サケクサのクサクサ吐息攻撃!」
「やーめーろー!」
「えー、じゃあ、ちゅーはなるべく我慢するから、エッチしょー、エッチ」
「時計見いや。夜中の一時回ってんねんで。年中フラフラしとるあんたと(ちご)て、俺は明日も学校が」
「一回だけ、一回だけ! な? な?」
 両手を組み合わせ、目を潤ませて見つめてくる。可愛いなんて思ってやらない。
「そんな顔してもあかん! それに、別に俺やなくても……」
「ん?」
「においや、におい! 香水臭い! 女物やろ、それ」
「ふふふー」
「なんや、気持ち悪い」
「ヤキモチ焼いちゃって可愛いー。だいじょーぶ、だいじょーぶ、バイト先の人と一緒に飲んでただけやから。気になるんやったら服脱いじゃう」
「ええ、ええって! そのまま自分の部屋帰り!」
 悠宇は同じマンションの上階の住人だ。エレベーターに乗れば一分で帰れるというのに、一切聞く耳持たず、勢いよく全部脱いでしまった。床に衣服が散らばる。
 確かに彼の裸体は朝陽の好み、というか、一般的にも美しいとされる類のものではあったが、今はゆっくり鑑賞する気にはなれない。どうしても身体の中心部分に目が行く。なぜか勃起していて、とても元気な状態だったから。
「そんなべろんべろんに酔うてんのに……」
「俺のー、ちんちんがー、おっきくなっとんのはー、あーちゃんに突っ込むためです! ずこばこしてー気持ちよくなるためでーす!」
「変態! 露出狂!」
「観念しい」
 軽々と抱き上げられ、寝室のベッドへ運ばれる。ああ、やっぱりこうなる。いつもの流れだ。
 驚くほどの早業で脱がされていくパジャマ。最後の砦と守っていたパンツも引き剥がされて宙を舞う。
「うわあ」
「……なんや、あーちゃんもやん。よお、一昨日ぶりやねー」
 半勃ちのペニスは、つつかれると勝手にぴくりと震えて挨拶を返す。
「俺の勃起ちんこ見て興奮したん?」
「ちゃう! これはその、条件反射みたいなもんや。あんたがいっつもいっつも……」
「俺のちんちんでいっつもいっつも気持ちいいことされるから、条件反射しちゃうんやんなあ。可愛い可愛い、あーちゃんの素直なちんちんかわいー」
「それ大分馬鹿にしてへん?」
「とりあえず任せてや。一緒に気持ちようなろー」
 嬉々として朝陽を組み敷いた彼は、こちらも予感して勃ち、準備をしている乳首に吸いつく。身体は素直。悲しいかな否定できない。
 ちゅうちゅう吸って、小刻みに舌先で舐めて。感じる箇所ではなかったはずなのに、すっかり敏感になってしまった。こいつのせい、こいつが悪い、全部悪い。
「あーちゃんの乳首美味しい」
「阿呆……、へんたい……、妖怪べろべろマン……」
「はいはい、妖怪サケクサべろべろマンは、あーちゃんのエッチなぷるぷるピンク乳首が大好物でーす」
「……あほ、あほしかない」
 しつこく舌で遊び、もう片方は手で弄る。一方的に情欲が煽られ、身体はそれ以上を求め始める。嫌になるほど単純だ。
 だんだん焦れてきて、無意識に自分の尻に手を伸ばす。悠宇は目ざとくそれを見つけ、意地悪くからかいを口にした。
「あれ、どうしたん?」
「……もうこっちしてや」
「こっち?」
「わかるやろ。お尻うずうずして……。はよ、なあ」
「あーちゃんって、わかりやすく乳首がエッチ切り替えスイッチやんね」
「うっさい」
 恥ずかしがるのも馬鹿らしくて、自分でうつ伏せになり、尻を突き出す。悠宇はベッド脇のテーブルからローションのボトルとスキンの箱を取り、朝陽の腹の横側に移動してきた。
 彼の掌でローションがくちゃくちゃと混ざり、尻に塗りつけられる。穴の表面を撫でられただけで声が漏れそうになる。
「ふっ……」
「俺のも触ってや。まだ風呂入ってへんから手でええよ」
「別に今更そんなん気にせえへんし……」
 彼の股ぐらに顔を寄せて握り、大口を開けて先をぱくりと口に含む。慣れたにおいと味、美味しくはないが、嫌いじゃない。舌で先っぽをよしよし撫でてあげて、それから彼は裏筋も好き。
 頭上で息を漏らすのが聞こえる。
「あーちゃんは口の中も気持ちええもんなあ。喉奥ガン突きして精子流し込みたいけど、嫌われるの嫌やからやめる」
 それより前に気にすることがあるのでは? 夜中に部屋の前で騒ぎ散らした上、服を脱いで乗っかってくるのは許されるとでも? ……まあ、許すんだけど。
 彼の方はこれから突っ込む穴を広げて、こちらは突っ込まれるものを丹念に濡らして硬くさせて。結局、朝陽だって、この行為を望んでいるのだ。
「俺のちんちん好きって伝わってくるフェラでうれしい」
 あほ、と視線で罵ったつもりだったが、多分伝わっていないだろう。
 ここでしつこく粘ったりはせず、悠宇は指を抜く。
「もうええかな。とろとろアナル準備万端や。今日も実に旨そうな仕上がり。涎が止まらーん」
「喋るのやめえ」
 発言がいちいち阿呆すぎるのはいただけない。
 ひっくり返して仰向けにされ、足を抱え上げられる。充てがわれたペニスがすんなりと飲み込まれていく。
 これが何度目の行為かなんて覚えてはいないけれど、初めて繋がったときの、喜びや充足感といったある種の感動は、今でも繋がるたびに湧く。この男に抱かれてうれしい。幸せか不幸か、どちらだろう。
 ゆるゆると腰を動かしながら、彼は零す。
「あー。やっぱめっちゃ具合ええわ」
「ん……」
「あーちゃんは? 俺のちんちん気持ちええ?」
「……知らん」
「えー、あかんの? なら頑張るわ。あーちゃんのええとこいーっぱい突いたるな。あーちゃんも気持ちようなってなー」
「ちょっと、ええって。適当に終わらしてくれたらそれで……」
「遠慮しいな」
「ひっ……」
 腰を掴み、手前の方にある弱い箇所、前立腺のあたりを刺激され、集中的にそればかり攻められる。いきなり容赦がない。
「お前、いい加減にっ」
 快感の大元を直接つぶされているようで、何度もびくびくとし、痛いくらいに背を反らす。長く保つはずなどなくて、実にあっけなく、五分も経たずに達してしまった。
 なんだこのおかしな攻撃技は。こんなに早いなんておかしい。
「ぴゅっぴゅしたー。じょーずじょーず!」
「……」

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