言い返す気力もなく、はあはあと肩で息をする。
「でも、あーちゃんは奥のほうが好きやもんな」
ずんずんと無遠慮に深く、深く。下腹部の柔らかな下生えの感触が、くすぐったく感じるくらいに深く。駄目だ、その先は——。
「嫌や。ほんま、奥抜くんは……。明日一限からやねんって。なあ」
「結腸は勘弁したげる。奥とんとんするだけや」
「ひっ……あ」
達したばかりの中を行き来し、丸い先端がしきりに奥を叩く。意図せず肉壁がペニスを締め上げ、淫らに子種をせがんだ。
「ほんまやらしい穴……」
自分でもそう思う。
「どう? なあ、あーちゃん」
「はよいけ、あほ……っ」
「そういうときは、気持ちよくってどうにかなっちゃうーって言うんやで」
「自信かじょーっ……うあ、あんっ」
「かーわい。やっぱちゅーしちゃお」
唇が重なる。酒臭さなど、もう気にならなかった。自ら舌を差し出して、彼の首に腕を絡める。
「あーちゃん、あーちゃん、世界で一番かわいい……大好き」
調子いいことばかり言いやがって。明確な音にはならずにあえぐ。
やがて、動きを止めた彼は、小さくぶるりと震えた。吐き出している、朝陽の中で。何度繰り返したって、この時も不思議と毎度満足感がある。
「あーちゃんは……? いけた?」
こくこく頷いて答える。二度目の射精はなかったが、彼と同時くらいに中イキしていた。
「あーちゃん、あーちゃん、かわいい……」
唇を触れ合わせるだけの、甘えたなキス。
「ね、もう一回……」
「一回だけて言うたんはゆーくん」
「そやったねー。俺ももう眠たい。ちんちん元気やけど、眠気が限界……」
「はよちんちん仕舞って寝え」
「うん、そうする」
ずるずる抜けていく。中身がたぷたぷに溜まったスキンを外し、端をくくってゴミ箱にイン。あ、そのまま入れたな。すぐ側にティッシュ箱があるのに。
叱ってやろうにも、悠宇はすでにベッドの上で丸まって目をつぶっている。全裸のままだ。
下に落ちている掛け布団を拾う。
「ほら、ちゃんと布団着な」
「うん……」
「やるだけやって、ほんまに」
「いつもありがと、あーちゃん」
「はいはい」
「あーちゃんのおかげで、いつもちんちん幸せです……」
「あほ。ほんまあほ」
「ふふ……」
三秒後に寝息が聞こえてきた。
朝陽の方も早く寝ないと。おかげで今日もよく眠れそうだ。
翌日のこと、案の定一限目は爆睡してしまった。
欠伸を噛み殺しながら筆記具の片付けをする朝陽を見て、同じ講義を受けていた篠津成瀬は、呆れたように言った。
「この時間、寝てる人はちらほらおるけども……、先生こっち睨んでたで」
「顔覚えられとるかなあ。単位落とされたらやばい」
「昨日遅うまでテドファン付き合わせちゃったせいやんな。ごめんな」
同専攻の成瀬とはゲーム仲間で、よく一緒にプレイする。昨日は新作アクションゲームのテルミドーラ・ファントム、略称テドファンに時を忘れて熱中していた。二人とも、没頭し始めたらなかなか抜け出せない質で、こうして共に夜更かししてしまうことは頻繁にあった。
だが、今日の寝不足は、ゲームのやり過ぎというより、他に原因がある。
「いや、その後にも色々あって……」
その『色々』はとてもここで説明できるものではないので、話を逸らす。
「成瀬、二限はどうやったっけ。取ってる?」
「空きやで」
「俺も。図書館で課題やらん? 期限迫ってんのあって」
「ええよ。やろやろー」
三回生、四回生で楽をするために、今は取れる単位をなるべく取っておく時期。真面目に学業に励まないと。本当に居眠りなどしている場合ではないのだ。
講義のあった棟を出て、図書館へ。運良く地下にある個室が一部屋だけ空いていた。そこでしばし黙々と取り組む。
どうにかレポートを一本書き上げ、タブレット端末をスリープ状態に。先に終わったのか、成瀬はスマホでパズルゲームをしているところだった。
連鎖を起こして次々にブロックが消えていく。集中しているようなのでそっとしておき、ステージが切り替わるタイミングを見計らって、小声で話しかける。
「なあ、成瀬さん」
「なに?」
「前に言ってた人、どうなったん。付き合うん?」
成瀬とは、趣味だけではなく、性的指向が同じ貴重な仲間でもある。恋愛話に花を咲かせることも多い。彼の経験談は独特で面白いので、毎回報告を心待ちにしている。
週末に気になっている人とデートに行くと言っていたが——。彼はスマホを置く。
「ああ、あれな……。付き合わんと思う。顔はそこそこイケメンやったんやけどなあ、なんかあれがあれで気持ち悪くて」
「あれ?」
「粗チンな上に色がグロくて形が変で虫みたい」
「ボロクソやん……」
「だって、イケメンのちんこはイケメンであってほしいやん。ホテル行ったけど、適当に手で抜いたげて帰ってきた。あんなん入れられたなかってん」
「それ本人に言うてへんやんな? かわいそすぎる」
「言うてへんよ。殴られたら嫌やもん。今日はちょっと勇気が出なくて怖いって泣き真似しといたわ」
「さすが」
ゲームキャラの女装コスプレも嗜む成瀬は、自他共に認める美少年顔で、自称イケメンハンター。理想の彼氏を求めて、日々狩りに勤しんでいるらしい。実に素晴らしい行動力である。朝陽には真似できそうもない。
半分別の世界の出来事のように思って聞いていると、今度は成瀬から質問が飛んできた。
「朝陽はどうなん。彼氏作らへんの。いっつもはぐらかして教えてくれへんやん。僕にばっかり喋らして」
彼氏か。彼氏……は多分いない。夜中に突撃してきて睡眠時間を奪っていくこともある、迷惑な男ならいるが。
これまで説明しづらくて話していなかったが、相談できる人がいるとすれば成瀬しかいないのかもしれない。誰かに聞いてもらえれば、すっきりすることもあるかな。
「彼氏っていうか……、今まで黙っとってごめんやけど、セフレみたいな人はいたりいなかったり……」
「セフレ! 朝陽が?」
「うん、まあ、うん」
「童貞処女やなかったんや。ちょっとショックや」
「なんで成瀬がショック受けるん」
「このまま朝陽に彼氏ができへんかったら、僕が朝陽の童貞奪ったろって決めててん」
「まだ童貞は童貞やけどな……」
「非処女になっちゃったんやねー」
「言わんといて。言葉の破壊力すごい」
自分がそんなカテゴライズをされるとは、数年前は思いもよらなかった。
いつもは朝陽が聞き役だが、この日は立場が逆転。明かされた友人の秘密に、成瀬は興味津々の様子。
「相手どんな人なん。彼氏にはしてくれへんの?」
「付き合うどうこうって話はしたことないけど、あんまり見込みないと思う。なんかこう、いっつもフラフラしとるっていうか……、縛られんの嫌い、みたいな感じ。今まで見かけた相手と比べたら俺は全然タイプちゃうし、今でもおるかもしれん、俺以外にもそういうことする人」
まだ身体の関係を持つ前、悠宇がただのご近所さんだったころ。彼が毎回違う人を連れてマンションに入っていくのを、よく目撃していた。その相手のほとんどが、男を誘う花ような香りをまとった派手な美人。
目立たず集団に埋もれがち、何事も「ほどほど」が安心する量産型大学生の朝陽とは、まさに真逆のタイプの人々。冷静に考えて、あの中から選抜されて、朝陽だけが残るのはありえない。
同じマンション住まいだから手軽に会いに来られる、そこそこ気が合うから手元に置いておいて不快じゃない、彼が自分に構うのはそういう理由なんだろう、おそらく。
「それが現実……」
「まあ、お互い納得してるんやったらええと思うよ? でも、僕はそんなん無理やから、ちょっと心配になっちゃう」
「せやんなあ。俺かってちゃんとした彼氏ほしいと思てるけど、……が気持ちええから、毎回流されて、別にもうええかなーみたいになって」
「ん? ん?」
「エッチが、気持ちいい」
「うわー、清純派の朝陽から絶対に聞きたくないセリフ出たー!」
「成瀬が言い直させたんやん!」
「マジでどんなんなん。写真ないの」
「ある」
自分のスマホを取り出し、ロック解除して差し出す。ホーム画面には無邪気に笑う男が常駐している。
じっとそれを凝視する成瀬。言いたいことはわかる。
「壁紙、セフレを」
「あっちが勝手に設定してきてん。俺の顔眺めて幸せな気分に浸って!とか言うて……」
「自信満々やん。でも、これならまあ……。画像修正してこれとか?」
「無修正や。素でこれや」
「めっちゃかっこええやん。チャラいけど」
「チャラいよ。チャラッチャラや」
明るい金髪、耳には複数のピアス。朝陽の実家のある閉鎖的な田舎では、それだけで「近づかない方がいい人」と認定される容姿。話をするまでは、朝陽だって少し怖かった。
「背は?」
「高い。俺より二十センチくらい。ほどよくガタイいい」
「あー、この顔で身体よし、エッチよし、だったらまあ、セフレ続けちゃうのもわからなくは……」
「せやろ? ぎゅーっとしてかわいいかわいいされて、好き好き甘えられたら、もうなんか、もう、もう……!」
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