(2)メロンソーダは弾けて混ざる

「……え?」
 この状況はどういうことか。抱き合う二人は、いつの間にかぐるりと観衆に取り囲まれていた。
 すっかり忘れていたが、ここは多種多様な人々が行き交う、繁華街の歩道上。直ぐそこに交通量の多い交差点もある。どうやら、自分たちは見世物になってしまっていたらしい。
 悠宇は観衆を一周、ゆっくりと眺め渡してから、首を傾げてしばし考え込む。が、結局何も浮かなばなかったのだろう、まあいっか、と小さく呟き、あちこちから聞こえてくる「おめでとう」の声に、律儀に「ありがとー!」と応えていた。
 想定外すぎる事態に、朝陽の方はフリーズするしかない。ただ静かに固まっていると、悠宇に手を引かれた。
「大丈夫? はよどいた方がええやろし、行くで」
「……うん」
 彼に連れられて、タクシー乗り場まで移動した。
 
 
 終電時間はまだ先だったが、悠宇は一刻も早く帰りたがって、朝陽をタクシーに押し込んだ。
 走り出してしばらく、徐々に現実に戻ってきて、頭を抱える。
「ああ……、やってしもた……」
「何がいな」
「衆人環視の中で、あんな……。恥ずかしすぎる、死にたい」
「生きて! あーちゃんが死んだら俺も死ぬー」
「嘘、死にたくない。死にたくないけど。うわあ」
 ここが他人のいる車内でなければ、力の限り叫んでいたに違いない。
 悠宇はといえば、大物の器なのか何なのか、実にあっけらかんとしている。
「そんな思い詰めんでも、見てた人も明日になったら忘れてるって。あの辺、酔っぱらいの喧嘩多いし」
「あれ酔っぱらいの喧嘩にしてもらえる? 忘れろ……、念を……、念を送る……」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ」
 穏やかに繰り返し、彼は繋いだままになっている手に力を込めた。重なった肌から感じる体温が、急に強く意識される。
 今は朝陽を宥めるためにしているのだろうけど、初めて寝たとき、こうして誘われたんだよな、たしか。この後は多分、というか、絶対する。どうしよう、そわそわしてきた。
 マンションが近づくにつれ、そわそわ度合いは増していき、おそらく悠宇もそうだったのだろう、途中からほぼ会話がなかった。早く二人きりになりたい、そればかり考えていた。
 下車後、競歩の勢いで悠宇宅へ直行する。ドアを閉めれば、他人の目は完全にシャットアウトされて。抱き上げるようにして玄関の壁に押しつけられ、唇を塞がれた。熱っぽい息遣いが殊更に興奮を煽る。
「もっとべろちょうーだい。あーちゃんのべろおいしい……」
「んっ……」
 下肢を擦りつけ合いながら、夢中で求める。もうすでにはち切れそうで、痛いくらい。なぜこんなにも昂っているのだろう。
「あかんてぇ」
「……なんで? もう家やで? だーれも見てへんよ?」
「身体変やねん……。いっぱいいっぱいで、あふれそう」
「うんうん、わかるわかる。いき、何回でもいったらええよ」
 欲の促すまま絡み合うキスを続けつつ。彼の右足が両足の間に潜り込んできて、固く張り詰めたものも袋も穴も、同時にぐりぐりと刺激する。
 繋がりたい。たくさん突き上げて、彼のものなんだって実感させてほしい。
「あっあっ、もう入れて。なあ、入れてー」
「さすがにここではなあ。もうちょっと待ってなー」
 ひょいと抱え上げられ、靴を脱がせてもらってから、寝室へ。ベッドに転がされた朝陽を、ひんやりとしたシーツが受け止める。
「とうちゃくー。はーい、脱ぎ脱ぎしょーなー。おっぱいとちんちん出そ」
 悠宇は朝陽のシャツのボタンに手をかけ、一つ一つ外していく。手伝ってもらいながら、身につけているものを全て取り払った。
「はは、パンツびしょびしょやん。何回かいった後みたい」
 脱ぎたての下着に鼻をくっつける彼に、怒る余裕もなく。うつ伏せになって尻を突き出し、自分で穴に指を入れて抜き差しする。
「えらいなあ、あーちゃん。くちゅくちゅして、自分で準備してんの」
「うん……」
「ローション足したるなー」
 彼はベッド脇に常備してあるボトルを取って、尻にとろみのある液体を垂らす。
 見られているのはわかっているが、止められない。
「昨日もしたからすぐ広がる。すっかりちんちん入れるための穴になったなあ。ほしい? なあ、言うて」
「……ゆーくんのちんちんほしい。ほしいよぉ」
「えーこえーこ、そんなにほしいんやー。可愛い子。もういけるか見てみるな」
 指でアヌスの状態を確認してもらう。思い切りしゃぶりつきたいのを堪えて、緩めたままにする。
「いけるいける。上手に準備できたねえ」
 ご褒美のキスをくれた。
 挿入の前にいつもしていること——。
「ちんちん舐める……?」
「あーちゃんもう我慢でけへんのやろ? 俺も色々あれな感じやから入れさして」
 ズボンから露出させたペニスで、尻をぺちぺちと打つ。たまらない重みに、期待でぞくぞくが止まらない。
「ふふ、お尻揺れてる」
「早く、はよう、なあ」
「はいはい、お食べお食べ」
 押し開いて、入ってくる。繋がっていく。
 この体勢では彼のことは掴めないので、枕を強く抱いて代わりにする。
「ああ、やっと……。好き、好きぃー」
「ちんちんが好き?」
「好き、ちんちん好き、大好き」
「ゆーくんは?」
「ゆーくんも好き!」
「ゆーくんはちんちんの次?」
「どっちも好きやもん……。あ、そこ、もっと、なあ」
「えー、どうしよっかな。ゆーくんとしてはゆーくんが一番て言うてほしいな」
 彼は動きを止めて、身体を朝陽の背中に寄り添わせ、胸の前に回した手で両乳首をきゅっとつまむ。
「あんっ……」
「すごい締まる。先にこっちでいっとく?」
「動いて、動いてや」
「あーちゃんはさあ、いっつもあんまり好きとか言うてくれへんやん。ほんまに俺のこと好きなん?」
「そんくらい言わんでも……」
「信じさせてえや。俺、セフレて言われて、すっごいショックやってんで?」
「……ごめんね」
「ええよ、ええけど、謝ってほしいわけやなくて。ね、お願い」
 今じゃなきゃ駄目なのかと思わないでもないけれど、大切なことではある。
「……トイレットペーパーの在庫はあと一個で、卵の消費期限は三日後で、お風呂の燻煙剤はもうそろそろやらんとあかんくて」
「え、何の話よ」
「そんなん知ってるの、好きやからやん。どうでもよかったらほっといてるわ。……もうええ。自分でするもん」
 自ら腰を動かして抽挿する。いいところに当たるように角度を調節してみるが、上手くいかずもどかしい。
 連結部分に焼けるような視線を感じる。
「俺も……、俺も好き。そうやって、俺のことしっかり見てて寄り添うてくれるとことか、ちっちゃくて可愛いとことか、ツンケンした態度取るくせに、俺に構われたら嬉しそうにするとことか、美味しそうにご飯食べるところか、エッチ好きなとことか、乳首もちんこもぷるぷるのとことか、俺の簡単に入るくらい広がるのに、きゅうきゅう締め上げてくるとことか、全部好き!」
「後半性欲に偏りすぎてないか……?」
「あーちゃん、あーちゃん……」
「ひっ……!」
 いきなり繋がりが深くなり、息が詰まる。腰を鷲掴みにされ、激しく打ちつけられた。
「なにっ、なに?」
「なんかこう、ぐわっときてぎゃっとなってわーや」
「わけわから……んあっあっ」
 揺さぶられて、肉のぶつかる音が響く。元々切羽詰まっていたため、ひとたまりもなく。
「ゆーくんっ、ちょっと、ゆーくん……、ゆー!」
「いってる? いってるやんなあ。中きゅんきゅんしとるからわかるよー。けど、ごめんなあ。やめられへーん。いい、めっちゃ気持ちいい……、大好き、あーちゃん」
「俺も……好きぃー」
「好きな子に好きて言われながらエッチするの最高に来るわ。もっと言うて、もっと」
「ゆーくん、好き、好き、ゆーくん好き……っ」
「あーちゃん」
 両腕でがっつり押さえ込んで腰を打ちつけ、奥にぐいぐい押しつける。深く息を吐いたのが伝わってくる。
「出る……。せーしいっぱい。わかる? ちんこどくどくいってんの」
「うん、感じる……」
「……ありがと」
 首筋をぺろぺろ舐めて、背中にキスをして。いたわられているんだ、とわかる。幸せで、気持ちよくて、熱が引かない。
「それにしても早かったなあ。でも、あーちゃん、心配せんといて。今日は多分何回でもできるわ。朝まででも昼まででも」
「そんなに無理ぃ……」
「だめー、無理やないー」
「せめてあと一回か二回にして」
「あと二回できる? しちゃう?」
「したい」
「よーし、がんばろ!」
 ペニスが抜けていって、尻が寂しくなる。ベッドの端に寄って寝転び、枕を抱きながら、スキンを交換する彼を見ていた。
 ベッドの真ん中にいないのには理由がある。彼も見てすぐ気づいたらしい。
「んー、あれ、シーツ濡れてる」
「ごめん、ぶちまけちゃって……」
「潮?」
「たぶん」
「うわあ、いつやったん。見たかった! あーちゃんの潮吹き見たかった! ちんちんからフシャーッてなってるとこ!」
「バックでやってたら見んの難しいやろ」
「今度は正常位にする。いや、ぐっちゃぐちゃで寝にくいから、抱っこでしよか。ちゅっちゅしてぎゅーってしながらハメんの好きやろ?」
「する。ちゅーして抱っこしながらするー」
「もー、好きー。あーちゃーん!」
「好きー。好きっていっぱい言えんのうれしい」
「もっと聞かして。聞きたい」
 甘いのって、気持ちいい。

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