1-(1)魔物の罠にかかったら

 なんで……、いきなり性器を貶された上に手コキ? 男が男の手コキをするの? 自分の理解の範疇を外れすぎていて反応できない。
 ——それにしても革の感触って独特……。
 自分で握ったときと違いすぎる。
 戸惑う航。その下半身を、興味津々の様子の双子が熱心に観察していた。
「美味しそうな色してる。かーわいー」
「ねー」
 同じタイミングで舌舐めずりをして、うち一人が尋ねる。
「ねえねえ、君バージン?」
「バージンって、女の子じゃ……」
「セックスしたことあるのかって聞いてるの」
「ない、けど、別にそれくらい」
 航ぐらいの年では普通だろう。
「わあ、やったー。ほんとに? 初物貴重だ」
「ますます可愛いー」
「……」
 可愛いってなに? 子供に未経験を揶揄われた?
 彼らは航に睨まれたことなど気にも留めない。
「殿下、僕たちも手伝っていい?」
「好きにしろ」
 航の肩の左側、右側にそれぞれ来た双子は、自分の側の乳首を指でつんつんつつく。反射的に肩を縮める。
「やめろよ。なに、なにしてんの」
「えー、いいじゃんいいじゃん。ここも小っちゃくて可愛い」
「バージンの子には特別優しくしたげるね」
「おい、こら」
 新しいおもちゃを試すように楽しげな双子は、つついたり、指の腹で捏ねたり、軽く指で弾いたり、航が動けないのをいいことに、それぞれが違う動きで好き勝手に弄くる。擽ったい、だけじゃない。なんだろう、この腹の奥を切なくさせるようなむずむずは。
 やわやわと手コキも続いており、こんな妙な状況でもここまでされたらさすがに勃つ。
「ふふ、ちんちん元気になった」
「でもやっぱり可愛い。皮から出てきた先っぽ、ピンクでプルプルしてる」
「……な、お前ら!」
 もう見るな。見ないで。足を閉じたいのに閉じられない。びくともしない糸。細いのに強力すぎる。
 もがく航の傍らに、男の——双子たちに殿下と呼ばれる男の手袋が飛んでくる。外して投げたらしい。
「こんなものなのか?」
 彼は自らの白い指に唾液を垂らす。それはひどく扇情的な仕草に映り、状況も忘れて目を引きつけられた。
 濡れた指は尻に向かい、割れ目を辿って、慎ましく隠れた穴へと辿り着く。
「や、そこ……」
「こいつらに馬鹿にされたままでいいのか。もっと大きくしてやろう」
「馬鹿にしてないよー。褒めてるの! ちんちんも乳首もいかにも初物っぽくて可愛いって」
「そうだよねー」
「……!」
 羞恥が度を超えて頭に血が上る。
 双子に気を取られている間に、殿下の指がアヌスを押し、わずかに中へと侵入する。
「は? うわ、やだ、やだ、やめろ! 違う」
「何が違うのだ。ここも性器になり得る。本当に何も知らぬのだな」
 無遠慮にずんずん奥へ。異物感でただただ気持ち悪い。こんなとこ、触るとこじゃない。何を考えているんだ、変態。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ」
「怖くないよー」
 双子が頭を撫でたり、額にキスしたりして宥めてくるが、そんなもので誤魔化されるものか。
 追い出そうと力んでみても、中で指は蠢き続ける。
「固いな。貞淑な蕾だ」
「殿下の入るかなあ」
「気長に弄っていれば、そのうち……」
「いったい」
 何をする気だ、と言おうとしたところ、中のある一点が押される。意図せず身体がぴくりと跳ねた。
「ひっ……」
「ああ、いいだろう、ここは」
「だめ、そこ、だめ……」
「飴も与えながらいかないとな」
 何度も首を横に振るが、聞き入れてもらえるはずもなく。さらにぐりぐりと押される。緩くペニスを弄られるよりよっぽど強烈な刺激が、腹の中から背を駆ける。それは確かに快楽に分類される感覚で。
「あ、あ、あ……っ」
「さっきよりちょっと大っきくなったよ。よかったね!」
「お汁もぷくって滲んできた。朝露みたい」
 蕾やら朝露やらなんだその喩えは。文句を言ってやりたいのに声が出ない。
 弱い場所を度々掠めながら指を出し入れされる。さらに休んでいた手コキも再開。
「両方とか……っ」
「ここもしたげるねー」
 憎たらしい双子が乳首弄りまで追加してきた。
 何本もの手で敏感な箇所を責め立てられて、否応なく絶頂感が迫ってくる。もうすぐ。もういく。しかし、上ってきた精液は解放されず、いつまでたっても手が届かない。
「なに、なんで!」
「だってちんちんに糸ついてるもん。出せるはずないじゃん」
「我慢ねー」
「ひどっ……、やだっ! おいこら、外せ!」
「僕らに言われてもねえ」
 双子と揉めているうち、どさくさ紛れにアヌスの中の指が増える。
「うわ、また……、きついって……」
「痛くはないだろう」
「やだー! わーっ」
「うるさい。広げる」
 ぐちゅぐちゅと音をさせながら、殿下は真顔で着々と拡張工事を進めていった。尻穴など弄り倒して、目的が何かわからないから余計に怖い。
 叫び疲れてきたころ、ようやく指が抜ける。休憩か? ……というはずはなく。
 殿下はジャケットの内側から小瓶を取り出し、蓋を外すと、中身の液をアヌスへと流し込む。そして、先の丸い円錐の底面に持ち手がついた器具を差し込み、栓をする。ものの数秒の早業。苦情を言う隙さえ与えられなかった。
「人間は脆いから、壊れんように薬を浸透させる」
「殿下、優しいねー」
「僕たちも見習わなくちゃ」
「久しぶりの人間だから丁重にな」
 優しいものか。いくら夢だからってひどすぎる。人の身体を勝手放題に弄って追い立てて、ペニスはもうはち切れそう。痛々しいくらいに膨れている。
 それをうっとりと見つめるおかしな子供。
「汁がだらだら。ね、殿下、味見していい?」
「シーツにいっぱい落ちちゃって、もったいない」
「少しだけだぞ」
 航の頭側に回った殿下は、腋を持って背中を起こす。航が暴れようとしても微動だにしなかった糸は、彼に合わせて容易く伸びた。人形のようにされるがまま膝立ちになり、後ろから羽交い締めに。心の底から嫌なのに、抗えない。
「ありがとー、殿下」
「いっただっきまーす」
 前面に来た双子は屈み込み、航の股ぐらに顔を寄せると、まず一人が、一際感じやすい先端をぺろりと舐める。
「あんっ……」
「僕も僕も」
 かわるがわる小さな舌を這わせ、射精口から溢れる先走りの蜜を啜っていく。肝心の精液を堰き止められたまま刺激を与えられ続け——。
 駄目だ。おかしくなる、こんなの。
「うっ……あっ……」
「カウパーどんどん溢れてくるー」
「もっと出して」
「お前たち、行儀が悪いぞ」
「だって美味しいんだもん」
 殿下も何もせずにいるということはなく、背後で尻に嵌まった栓を動かしながら、耳朶に軽く歯を立てる。耳に注ぎ込まれる低音が、甘くねっとりと鼓膜に絡みつくようで、ぞくぞくと震えた。
「そんなに栓を締めつけて。子供の舌がそんなによいか」
「よくなんか……!」
 こんなの、苦しいだけだ。もう何度も絶頂を超えているはずなのに達することができない。
「う……」
 堪えきれず涙がにじむ。悔しい、嫌だ、なんでこんな目に。
「こちらを向け」
 顎を掴まれ横を向かされる。ざらついた男の舌が涙を舐め取っていく。
「泣け。涙も旨い」
 この人でなし。ああ、人じゃないのか。魔物なのか。ここは魔物の巣。
 ——魔物の巣……。とてもおそろしいばしょ……。
 栓が抜けていって、ベッドに横たえられても、まだ涙は止まらない。ぐずぐずと鼻を啜る航をよそに、魔物たちは訳のわからない話し合いを始める。訳のわからないことばっかりだ。
「これでもまだ厳しいな」
「僕たちに任せて。殿下が使えるように広げるよ」
「それがよかろうな」
「どっちが先にする?」
「どちらでもいいから早くしろ」
「じゃあ、ジャンケンねー」
 双子が勝負するようだ。三回ほどあいこが続き、赤のリボンタイの方が勝ち、青のリボンタイの方が負け。
「いいな、ミヤ、バージン食べれるなんて」
「ふふふー」
 バージン……? 食べる……? そんなわけない。だって男だし、尻だし、そんなの。でも、尻穴を広げて……入れるって……。
 血の気が引いていく。本能が拒絶する。咄嗟に逃げようとするが、伸びていた糸は元に戻っていて、再びベッドに固定されてしまっていた。
 半ズボンの前をくつろげて、双子の片割れミヤがペニスを取り出す。すっかり上向きで準備が整ったそれは、大人と比べれば細いが、しっかりと男の形だった。固定されているはずの航の足を持ち上げ、だらしなく口を開け閉めしているアヌスに宛がう。
「待って……、やめ」
「やーだ。入れるに決まってんじゃん」
 躊躇なく挿入する。怪しげな液を注入されていたおかげか、意外にもするっと入っていく。他人の性器が航の中に。ここは膣じゃないのに。
「嘘、いやっ、やだっ」
 結合部分を間近で凝視するメヤは、首をかしげる。
「えー、なんで? いきなり殿下のを入れるの、かなりつらいと思うけどなあ。ねえ、ミヤ、どんな感じ?」
「めっちゃぬるぬる絡みついてきて気持ちいい……」
「いいないいなー。僕も早くしたーい」
 僕も? ミヤの後はこいつ? その次は殿下? 女の子としたこともないのに、男に回されるのか?
 全力で拒否する気持ちはあるのに、ゆっくり抜き差しされると、焦らしに焦らされた身体は快感を追いそうになってしまう。上で腰を振る少年にはそれがお見通しのよう。
「ねえ、君も感じていいんだよ?」
「こんなの感じるはず……、あっ」

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