「はーい、よくできました」
髪をくしゃくしゃと大きく撫でてくれる。構ってもらえて褒めてもらえて幸せ。身体がぽかぽかしてくるみたい。やっぱり準備運動は必要だ。自然とプレイに没入できるコンディションになる。
ステラに向けた「おすわり」に反応した恵瑠は、まずは飼い犬ごっこをするのがいいだろう、ということで、初めてのプレイのときは「おすわり、お手、おかわり」から始めた。その名残で続けている。
「さて、始めるよ。喋ってもいいからね。ちゃんと感想言えたらいいね」
ふわふわ良い気分に浸る間もなく、無情にも動画の再生ボタンがクリックされる。いきなり全裸で両足を大きく広げた自分の姿が映し出され、尋常でなく心臓に悪い。
「うわあ」
「目を逸らすな。普段自分では見ないだろう。裏側の付け根の方とか会陰部分とか穴とか」
「エインってなに?」
「玉と穴の間」
「……」
見えるわけがない。
あんなところに名前があったのか。勉強になった……のか? 今後この知識を使う機会は一生ない気がする。
聡司は恐竜展の解説をしているときと同じトーンで話し続ける。
「ここ、綺麗な色だろう。押して刺激したら結構気持ちいいみたい。てらてらしているのは先走りが垂れてきているからかな。ローションかも」
動画の中の自分が、指示を受けて両手で穴を広げる。
「ほら、とろとろだよ。ピンクの中身が見えてるね。ぱくぱくしていて可愛い。恥ずかしそうな顔してるけど、見てほしいって全身で言っているみたいだ」
「うわあうわあうわあ」
「うるさい。うわあじゃなくて、喋るなら感想を言って」
「……はい」
思わず実況を遮ってしまったが、怒られて口をつぐむ。
声を裏返させて入れてほしいと懇願する、画面の中の自分。穴に押しつけられる丸い先端。すぐにはもらえずに表面をこすられて——、あの時の感覚が再現されるようで、腰の辺りがうずうずする。
「うー、感想なんて何を言えば……。せめて聡司くんが映ってればいいけど、ちんこと片手だけ……」
「しょうがないだろ。僕がカメラを持っているんだから。次は三脚使って固定カメラも置く?」
「もうそれAVみたい」
「見たことあるの?」
「そりゃまあね。興味はすごくあって」
「ゲイもの?」
「友達に借りたやつだし、よくある男女のやつ」
「ふうん。君が僕以外から性知識を得るのは好ましくないな。今後は見ないように」
「最近は全然見てないよ」
「よろしい。ああ、あっちに集中。入るよ」
先っぽが穴に押し込まれる。
——ほんとに入ってる……。
繋がっている。襞が広がって、ぎちぎちになって。咥えこむという表現がぴったり。
「鏡使っても、このアングルからは見られないからね。僕からはこんなふうに見えているんだよ」
「わあ……」
一緒に入ってきているようで、ついつい尻に力が入る。逃げ出してしまわないように、彼の片足にしがみついた。
恵瑠の必死の形相が面白かったのか、彼は小さく吹き出す。
「おねだりを何にするか考えながら見れば?」
「おねだりって何でもいい?」
「君が本当に望むことなら、何でも」
「頑張る……」
「頑張れ」
望んでいることは多いが、こういうチャンスにしか言えないことを考えれば、自ずと一つに搾られる。
動画は揺れがひどくなり、見入っていると酔いそうだ。混ぜかえすときの水音も生々しい。
——気持ちいいんだよな。ああやって奥を責められるの……。
無意識に自分の親指に歯を立てる。もうズボンの中が苦しい。脱ぎたいな。弄りながら見たい。でも、していいって言われてないし。
もぞもぞとしているのもしっかりチェックされていた。
「こすりつけない」
「……はーい」
注意されてしまった。じっとしているしかない。頑張る……、頑張る……。画面に集中。
最中は行為に夢中になっているので、肉と肉がぶつかる音をこんなにじっくり聞いたことはない。スピードが増す従って大きくなる喘ぎ声。うるさすぎる。変な声だし、おまけに変な顔になっているし。
羞恥心に後頭部を何度も殴られながらも、どうにかこうにか目を逸らさずに踏ん張る。そして、いよいよクライマックスというところで——、ガタンという音の後に天井が映った。スマホを放り投げたらしい。
「そうだった。最後まで撮ってなかったんだった。やっぱり三脚がいるね」
まあ、彼も映るし、自分のアップだけを見ているよりはいいのかなあ。前向きに考えれば。
聡司は再生を停止する。
——やっと終わった……。
大きく息をついて彼の足にもたれかかる。パソコンを脇のガラステーブルによけた彼は、頑張った後のお約束で頭を撫でてくれた。髪を梳くように柔らかく。
「ちゃんとお利口に見られたね。おねだりは考えた?」
「えっと……」
「何でもいいよ」
おねだりしたいことはある。今一番望んでいること。
「……教えてほしい。勉強したい」
「受験勉強の話?」
「それもあるけど。聡司くんに満足してもらうための勉強。まだ俺はSubとして未熟で、物足りないとこもあると思うけど、聡司くんとはずっと一緒にいたい。そのために聡司くん好みのいい子になりたいんだ」
彼にとっての『満足させられる一人』になりたいし、そうであり続けたい。他の誰かを相手にしようなんていう気を起こしてほしくない。
「……」
返事がないので、不安になって顔を上げ、彼を窺う。
「……だ、駄目?」
「いや、いいんだ。そういう気持ちを持ってくれることはありがたいと思う。でも、君は君でいるのが一番というか、そうじゃなくなると困るというか……」
聡司にしてはめずらしく、口にする言葉を迷いながら話す。
「教えられることは教えてあげるけどね、僕は現状にはとても満足していて……、だから、強引に自分を変えてまで僕好みになろうとする必要はないんだ。兄のあんな話を聞いたのがショックだったんだね。僕は慣れているから、よく考えもせず話してしまったけど……」
「ちゃんと俺に満足してくれてる?」
「ああ」
「でも、今だけじゃなくて、ずっと満足してほしくて。この先もずっと。だから」
「それは君だけが頑張ることじゃないだろう。関係を続ける努力は二人ですることだから、一緒に考えればいい。……おいで」
彼はこちらに向かって両手を大きく広げる。
これはおそらく、こういうことで合っている。膝をついて立ち、彼にぎゅっと抱きつく。
背中をさする手は温かくて優しい。こうすることで恵瑠の不安を取り除こうとしてくれているのだ。大事にされている、大切に扱われている、そう感じることができて、胸が苦しいくらいになる。幸せな痛みだ。
——うぅ……、好き。大好き。
「聡司くん……」
「大丈夫だよ。僕だって君の『一人』でいたくて、ずっとやきもきしてる」
「ほんと……?」
「知っているだろう。僕が口うるさいことは」
「……それもそうだね」
「好きだよ、恵瑠」
いい子と言われるのも気持ちいいけれど、好きと言われるのはもっと気持ちいい。
吸い寄せられるように唇を重ねる。溜まった「好き」を吐き出すようにキスをした。
——あのときももしかして……。
先ほどここに来る前、河川敷で聡司からキスをされたのも。「好き」がいっぱいになって発散させたかったとか……。そうだったらいいな。
舌で舌を味わうのに熱中していると、不意に彼の足が股ぐらをぐいっと押し上げる。
「うあっ……」
「当たってる」
「だって……」
長々とハメ撮りを見させられて、加えてあのキスでは、堪え性のない恵瑠の下半身はどうしたって反応してしまう。
彼は恵瑠の耳をくすぐり、囁く。
「どうしてほしい? 言って。その通りしてあげる」
「その足で……」
「足で?」
「足でして……」
「何を」
「踏んでいかせてほし……い、です」
「このまま?」
「直接の方が」
「そう。じゃあ、下、脱いで」
「はい」
ズボンと下着を脱いで、床のクッションに座り直す。下を脱げと言われたのだから、上はそのまま下だけ、が正しい。
聡司は首輪の金具にリードを繋ぎ、それを片手に自分の右足の靴下を脱ぐ。
——素足……、エッチだ……。
どうか早く、はしたなく頭をもたげる昂ぶりを叱って。
「いくよ」
足がペニスの裏側に添い、腹に押し付けられる。もどかしい。もっと強く……。そう、もっと。しかし、ちょうどいい圧になる前に足が浮く。
今度は親指と人差し指に挟まれ、裏筋をさするように動かされる。手とは違うぎこちなさが焦れったくなってきたころ、また足が離れ、足裏全体で力がかかる。達せさせない程度の加減で、踏むのとさするのが繰り返される。
わざとそうしているのだ。もどかしいのも、焦れったいのも。快感をコントロールされて、弄ぶように扱われるのにはひどく興奮した。
「恵瑠はこんなのがいいんだ」
「いい、気持ちいい……」
「おちんちん踏んづけられるの、そんなに好き? 変態」
「うん、好き、もっと……。……ひっ」
足指でいきなり先っぽを握りしめられ、息を詰める。
「あ、あ……っ、いく」
「もう? 早すぎじゃない? もう少し頑張りなよ、ほら」
いっそう力がかかる。射精感がすぐそこまで迫り上がってきて、止められない。
「いく、いきたい、いきたいよぉ……っ」
「じゃあ、僕の方を見ながら……、情けない顔晒していけ」
「わ……」
リードをぐいっと引かれる。顔が近づいて目が合い、そちらに気を取られたとき、さらに踏まれる。お許しを得ているので素直に吐精した。
「うあ、あ……」
——出てる……、たくさん……。
とても気持ちがいい……のはいいのだが、かかった場所が問題で。放ったものの多くが聡司の形の良い素足を汚していた。
綺麗にしなきゃ、という意識が咄嗟に働き、足を掴んで舌を寄せる。が、到達する前に足が引っ込んだ。
「……何を勝手に」
「あ、ごめんなさ……」
「なんて言うの」
「舐めたいです。舐めさせてください」
「よろしい」
つま先が口元に突きつけられる。恭しくそれを持ち、丁寧に精液を舐め取っていく。美味しいはずなどないのだが、聡司についているというだけでシロップか何かのように感じる。
恍惚として舌を動かす恵瑠を、彼は手元のリードを弄りながら見下ろしている。
「そうしていると犬より犬らしいね。本当に可愛い」
「ん……」
指の根元や隙間まできっちり綺麗に。余すところなく。
全て舐めてしまった後も、まだまだ味わっていたくて、ぺろぺろを続ける。しばらく彼はしたいようにさせてくれていたが、さすがに飽きてきたのか。再度足を引く。
「もういい。足がふやけそうだ。……ああ、涎でべとべとじゃないか」
ティッシュボックスから何枚か取ると、口の周りを拭いてくれた。自分の足だってべとべとだろうに、優しい。
彼は使った紙をごみ箱に投げ入れた後、リードをくいっと引っ張る。
「ベッドにおいで。お尻は?」
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