(二)夏——初蜜

「本当にどうしたのだ」
「腫れると抱きつきたくて仕方なくなるんだ。抱きついたからって治るわけじゃないのに」
 それとも、抱きつきたくなると腫れるのか? どっちだろう。彼の胸にぐりぐりと頭を擦りつける。宥めるように彼はレンの背をたたく。
「そういうことか。抱きつきたいのは、他の何かではない、私にということ?」
「もちろん。だから今こうしている」
「ああ、可愛い」
 きつく抱きしめ返される。
「わあ」
「いいなあ、こういうのは。なんだか……そう、とても人間的だ」
「……?」
「人というのは誰かを愛して抱きあうものだろう。とてもいい気分だ」
「愛するとは好きということ?」
「その二つはとても近い言葉だな」
「僕はスイが好きだよ」
「どんなところが?」
「とても優しい」
「ほう。それから?」
「釣りが上手くて、泳ぐ姿が綺麗で、色々なことを知っている。楽しそうに家の手伝いをしてくれるし、僕のご飯を美味しいと言ってくれるし、一緒に母を偲んでくれる。それから、抱きしめるととても温かくていい匂いがする」
「そうかそうか。それだけ好きで、どうして嫁に来てくれないのか不思議だな」
 素直に受け入れられたらどんなにいいかと思うけれど。
「……だって、それ、冗談なのだろう」
「私はいつでも本気だよ」
「でも、僕の身体は醜くて、普通じゃないから。見たらきっと嫌いになる」
「どうしてそんなこと。それが裸を見せない理由か?」
「うん」
「美醜の感覚はそれぞれ違うし、姿形より大切なことはたくさんあるのだよ」
「でも……、怖い。嫌われて会いに来てもらえなくなったら、僕は一人ぼっちだ」
「絶対に一人にはせぬよ。するものか。そうだ。先に私のを見れば安心するかな。私はどうやら人の普通とは違うらしいから」
「スイも……、そうなの? 僕と同じなのかな」
 下帯一枚の姿は見たことがあるが、何もおかしなところはなかったはず。人と違うとすれば隠されているその中。レンのおかしなところも股ぐらだから、もしかしたら仲間かもしれない。
 同じ仲間なら、奇妙とか気持ち悪いとか思わずにいてもらえるはずだ。突然湧いてきた希望に胸が高鳴る。
「見て判断してくれ」
 スイは立ち上がり、何の躊躇いもなく、その場で着物を脱ぎ出す。恥ずかしがっている様子は全くなく、堂々としたものだ。やっぱり綺麗な身体……、こちらの方が羞恥で目を塞ぎたくなる。
 残った下帯に手がかかる。心臓がうるさく騒ぎ立てて、いったん落ち着いていたものが、またぴょこっと跳ね上がってきてしまう。
 身体を覆う布がなくなった。恥ずかしくて仕方ないのに、まじまじと見てしまう。
「おっきい……。僕のと形が違う」
「いや、そこではない」
「この奥? やっぱり女の子のが付いて……。ん?」
 ぶら下がっているのは、どっしりとした陰茎と陰嚢。目を擦ってみる。陰茎が二重に見えたから。いや、二重ではなく、これは間にもう一本あるのか?
「ちんちん鈴なりだ!」
「鈴なりというほど多くはないがな」
「すごい。これ、生まれつき?」
「ああ。蛇や蜥蜴では普通だが、これと同じ人間には会ったことがない」
「そっか……。いいと思う。かっこいいよ」
「ありがとう」
 そうか。人と違っても、堂々としていていいのか。自分を晒すことで、スイはそれを教えてくれようとしたのかもしれない。レンもそれに応えねばなるまい。
「僕はね、一本だけだけど、他に余分なものが付いてて」
「見せてはくれぬのか」
「また腫れちゃってて……」
「構わぬよ。見せてくれたら直接触ってやれる」
「……うん」
 スイだって見せてくれたんだから、勇気を持って。ここで踏み出さなければ、一生怯えて暮らさねばならなくなる気がする。
 縁側から畳に上がって、勢いよく全部脱ぎ捨てる。素っ裸で、股ぐらのものは汁を垂らし始めているくらい元気で。視線を感じて、全身に火がついたように熱い。
 対して、スイは冷静に見えた。
「特段変わったところはないようだが」
「おかしいのはこの奥なんだ。えっと……」
 腰を下ろす。足を広げないと見えないが……、羞恥心の激しい抵抗に遭う。
「うぅ……」
「レン」
「わかってるよ」
 思い切って両足をがばっと開く。もう彼の顔を見られずに、横を向いたまま反応を待つが、これでも納得してもらえない。
「まだよく見えない。持ち上げて見せて」
「え、そんな」
 でも、それもそうか。肝心の箇所は隠れたままか。ここを見せないと意味がない。半ばやけくそになって、邪魔になっている陰嚢を手で引き上げ、女陰をさらす。
「ほう……」
「や、やっぱり変? 気持ち悪い?」
「とんでもない。綺麗だよ、とても」
「ほんとに? 気を遣ってないか?」
「本当。ここだけじゃなくて、そなたの身体はとても綺麗だ」
 綺麗、綺麗だって。今まで母以外に肯定してくれる人はいなかったから、舞い上がるほど嬉しい。スイはあの村人たちとは違うのだ。レンを排除しない。受け入れて褒めてくれる。
 彼も畳に座り込む。
「触ってもいいか。苦しそうだ」
「……いいの?」
「ああ。触りたい」
 手をどけると、スイの掌にそっと包み込まれる。この前は布越しだったが、今回は直接感じる熱。
「ひゃあ」
「赤くなっておるなあ。強く擦りすぎではないのか?」
「そうかも。早く終わらせたくて……」
「優しくしてやろうな」
 スイの頭が下がる。股ぐらに顔が近づいて、上反りの茎をぱくりと口に含む。
「え、食べた!」
「食べはせんよ。しゃぶるだけだ」
 温かく柔らかい口内で、幼子の指しゃぶりのように、ぬめった舌でべろべろと舐め回す。まったく未知の感触で、自分でするときとは比べものにならないくらい速く精が上ってくる。
「だめ、だめ、すぐ出ちゃうっ」
「いいぞ」
 同時に、指先が陰嚢の奥の割れ目なぞる。
 ——女の子のところ、触られてる……。
 意識した途端、腹の奥深くがきゅっと収縮するように感じた。
 ゆっくり撫でるのを続けながら、口に含んだものを吸い上げられると、若い身体はもう我慢が効かなくなる。あっけなく吐精した。
「あうぅ……」
 ぴくぴくと震えながら出終わるのを待っていると、スイの喉がごくりと鳴るのがわかった。
「うん、美味だ」
「食べた!?」
「飲んだだけだよ。ついておるだろ」
 どうやらちんちんは無事のようだ。
 ——気持ちよかった……。
 手でするよりずっと。熱を加えられた煮こごりみたいに、下半身がどろどろになるような。大人の世界にはこんなに気持ちいいことがあるんだな。
 どっこいしょ、と腰を上げるスイを何となく目で追っていると、彼の股ぐらに目が行く。さきほどより明らかに大きくなっているような。うん、なっている。二本にょきっと。数が多いと迫力があるように思う。
「スイも……」
「ああ、そなたがあまりにも可愛くてな。私もまだ欲を感じるらしい」
「僕も触りたい」
「ふふ、そうか。いいぞ。そなたがそうしたいなら」
 膝を突いて立ち、触りやすいようにしてくれる。
「失礼します」
 他人の性器に触れることなど、もちろん初めての経験だ。おずおずと、まずは両方とも指でつついてみる。どちらもあったかくて弾力がある。
 次に二本のうち上の方だけ握ると、ぴくりとした。
「動いた!」
「そりゃまあ飾り物じゃないからなあ」
 もっと色んな反応が見たい。好奇心がレンを大胆にする。
 ええと、どうすればいいんだっけ。握った手を動かしたらいいのか。
「こう?」
「もうちょっと強くても大丈夫」
「わかった」
 握力を強めてさする。スイはそれ以上注文は付けず、ただレンのすることを見守っているだけだ。わからないことはこちらから質問するしかない。
「一本余ってるけど……、こっちもする?」
「したいようにしてみればいいよ」
「うん」
 両手でそれぞれ持って、上下に往復させるのを続けるが、大した変化は見られない。
 なぜだろう。やり方が悪いのかな。ああ、さっきしてもらったみたいに、口ですればいいのか。舌を寄せて竿をぺろぺろする。
 特に味はない。先ほど精を飲んで美味しいと言っていたから、レンも味わってみたい。
 スイは汗で額に貼りついたレンの髪を後ろに流す。
「無理せんでいい」
「僕だってしたい」
「でも、疲れてきただろう。ちょっと放してくれ。一緒にやろう」
「一緒に?」
「ああ。一緒に気持ちよくなるんだよ」
 一緒にできるなら、それが一番いいか。「気持ちいい」にはたくさんやり方があるようだ。
 握っていたものを放すと、スイは腰を上げる。
「布団を敷こうか。足が痛そうだ」
「大丈夫だけど……、まあ、あってもいいか。えっと、布団は」
「いい、私がやろう」
 彼は隣の寝間の押し入れから敷き布団だけを持ってきて、さっと広げる。
「さあ、ここに寝て」
「どんなふうに?」
「仰向けで。膝を立てて」
 寝っ転がって、言われたとおりの体勢になった。
 彼は足の前に座ると、膝を持って左右に開かせる。咄嗟に手で隠しかけたが、堪える。一緒に気持ちよくなりたいから。
 また見られている。恥ずかしいところ。
「こんなに腫らして」
「だって……」

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