(二)夏——初蜜

「……龍神様が見ていないといいけど」
「なぜだ」
「だって悲しいもの」
「前にも言うただろう。このくらいでどうとも思わんよ。ただ加護を与えなくなるだけだ」
「龍神様は僕と同じだな」
「どうしてそう思う」
「あの村から追い出された」
「そうかもしれぬな」
 小さい頃から何度もそうしてきたように、彼はレンの頭を撫でる。
「さあ、もう帰ろう。今日は川遊びをするのだろう。日が傾き出す前に行こう」
「うん」
 村の人が神を捨てても、レンだけはあの祠を守ろうと思った。
 その決意表明、というわけではないが、川遊びの前に、スイからもらった菓子を洞窟の祠にお供えした。いつもの野菜より、今日は少し豪華だ。甘いものでも食べて元気を出してくれるといい。
 それを終えた後は、下帯一枚になって川へ入る。もう裸を見られることを気にしなくていい。
 スイは一足早く川遊びを楽しんでいた。泳ぐ彼はやはり綺麗だと思う。
 ひとしきり泳いで休憩。川辺の岩場に並んで座り、これまたスイが持ってきた無花果(いちじく)を食べる。風にはいつの間にか秋の匂いが混じり、髪が濡れたままだと冷たいくらいだ。
「少しひんやりしてきたなあ」
「おいで。温めてやろう」
 スイは満面の笑みでこちらに向かって腕を広げる。素直にお言葉に甘えることにした。膝に座ると、後ろから腕に抱え込まれる。
 しばらくぬくぬくを満喫していたのだが、羽織っただけの着物の隙間から手が忍び込んできて、邪魔をされた。
「もう」
「少しだけだ」
 触られるのは好きだからいいのだけれど、隙あらばという感じで迫ってこられると、嫌がる振りもしたくなるというものだ。
 彼は耳元にしきりに口づけながら、平らな胸全体を揉んだ後、乳首を摘まんで小刻みに指を動かす。擽ったくて、足をばたつかせる。
「なに、こそばい」
「ここでも良うなるらしいんだが。慣れが必要か。育て甲斐があるな」
「そういえば前も触っていたね」
「もうちょっと続けてもよいか?」
「いいけど」
 乳首を下から引っかくようにしたり、触れるか触れないかの加減でてっぺんを撫でたり、単調な刺激の繰り返し。
 じっとしていられなくて、彼の膝の上でもぞもぞする。なんだか下腹部がもやもやしてきたような。
 気を逸らすために話す。
「女の胸が大きいのは赤子に乳を飲ませるためだと聞いた。今はぺったんこだが、僕も子ができれば腫れてくるのだろうか」
「さて、どうだろう。多少は大きくなるかもしれんなあ」
「腹はどのくらい大きくなるかわかるか?」
「そなたはもう赤子のことを考えておるのか」
「だって何度か交わっただろう。交わると子が出来るのだぞ」
「知っておるが。私とそなたではなかなかすぐにできるものでは……。まあ、今はよいか。そなたは子がほしいのか」
「ほしいというか、家族が増えたら楽しいだろうと思って」
「そうだな。確かに楽しそうだ。なあ、そこまで考えているなら、よもやもう求婚は断るまい」
 身体の秘密を知られる前から、受け入れたいという思いは持っていた。隠し事がなくなり、肉体的な交わりも持った今は、彼を拒絶する理由はない。
「うん……。でも、伯父さんのことどうしようか悩んでいる。一応今も援助してくれているし、報告すべきかな? 怖いんだよな。村に下りるの……」
「文を書けばよいではないか。難しければ代筆するし、届けてもやるぞ」
「もう少しだけ悩んでもいい? もしも直接伯父さんのところに行くとなったら」
「ついていく。当然だろう。村に行くと決めたときは絶対に私に言うのだよ。一人で行ってはいけないよ」
「……うん、ありがとう」
 上体を捻って後ろを向く。唇を重ねたのはレンから。スイからお返しが来て、そのお返しをまたして。そのうち深く絡み合う。口づけは好きだ。心地良さにすぐ浸ってしまう。
 瞳が潤んでくるのは無意識だ。
「スイ……」
「また私を誘惑する目になっておる」
「そんなこと」
「ないことはなかろう。子作りのために励もうではないか」
 乳首をきゅっと摘ままれ、首筋を舐め上げられる。
「あっ……」
「そなたと繋がるのは気持ちようてなあ。こうしている間も中に入りとうて入りとうて」
「当たってる……。当ててる?」
「近頃は年甲斐もなく元気なのだ。嫌か?」
「嫌ではないけど、ここで?」
「ああ。どうせ誰も見てはおらん。この山にはそなたと私だけだ」
「……いいよ」
「そう来なくては」
 彼はレンを抱いたまま立ち、地面に下ろす。
「とはいえ、川が近すぎるな。こちらへ」
 うきうきとレンの手を引いて木々へ分け入っていき、この辺りでは一番大きい椎の木の前まで。
 人目がないとはいえ、こんなところでできるのだろうか。寝転がる場所もないのに。また新しいやり方が何かあるのかな。どんなふうだろう。
「そこの木に手を突いて立ってくれるか」
 期待で胸を膨らませながら、指示通りにする。
「こう?」
「そう。脱がすぞ」
「え、自分で」
「させてほしい。興奮するから」
「興奮? するの? いいけど……」
 川から上がったあとは袴を穿いていなかったので、下半身に身につけているのは下帯だけだ。彼は背後からそれを解き、椎の枝にさっと掛ける。
「お尻を突き出して」
 そうすると日の光の下で丸見えになるわけだが、触ってほしいので従う。視線を感じる。見られたことがあるとはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしい。
 もじもじしながら待っていると、股ぐらの割れ目に触れるものがあった。指だ、多分。
「そなたは本当に濡れやすい」
「これからするんだから、濡れていた方がいいんじゃ……」
「悪いとは言うてないだろう。それだけ求めてもらえて嬉しいよ。……と」
 カサッと音がしたので振り向くと、スイが地面に膝を突くところだった。尻たぶを掴んだ彼は、レンの股ぐらに顔をうずめる。
 ——え……?
 このぬるぬるしたものは……、舌か? 舐めるの? ここで?
 声にならない声を上げる。
「……っ!?」
「味わわせて」
「そこまでしなくても……! 外だし!」
「私がしたいんだ」
 両手で尻を広げながら、割れ目やそれを覆う膨らみに、無遠慮に舌を這わせる。味わうという言葉通り、啜って、吸い。合間に、前にぶら下がった袋を唇ではむ。
 触られてもいないはずの陰茎までいきり立って汁を垂らし出す。
「ちょっと、スイ……!」
 舌先が女の穴に捻じ込まれたとき、思わず叫んだ。
「だめ、出ちゃうから!」
 しかし、聞いてもらえず、さらに奥へ差し込まれた舌は、出たり入ったりを繰り返して中までしゃぶる。びちゃびちゃというはしたない音がうるさくて、耳を塞ぎたいくらい。
 いつもの交わりとは違って、深さもないし太さも足りないけれど、独特の舌の動きと感触が癖になりそう。
 もうこれは達してもいいということ? だよね? だって、出ると言ったのに続けているし。どうせもう我慢なんてできない——。
 が、射精できなかった。彼が竿の根元を握って堰き止めてしまったから。
「え、あっ……!?」
「毎回いきすぎてへとへとになるだろう。今日はもう少し堪えてみよ」
「そんな……」
「良うなるようにしてやる。任せておれ」
 握ったまま、スイは立ち上がった。背中にぴたりとくっついて抱擁してから、つい先ほどまで舌が挿入されていた場所に雁首を擦りつける。
 ほしい、ほしい、これでいかせて。下の口をぱくぱくとさせて中へと誘う。
「ねえ、スイ、早く……」
「ああ」
 押しつけられて穴が広がり、飲み込む。後ろからするのは初めてだ。奥へ奥へと進んで行き止まり。肉の壁に先っぽが当たって、ぐっと力が加わる。
「あうっ……ぁ」
「よう締まる」
 腰を掴まれて抜けていき、また柔らかな内部をごりごり擦りながら入ってくる。いつもの体勢でするのとは当たる場所が違って、初めての時みたい。
 挿入されていない方の陰茎は尻に当たっていた。抽挿の動きで尻穴の表面が刺激され、ここまで切なくなってくる。
 それに気づかれてしまったのだろうか。指が尻の窄まりの皺を撫でる。
「なに……?」
「入れられるところは女陰だけではないぞ」
 尻穴に指先が沈む。
「え……」
「私の、どちらも収めてみたくはないか」
「なに、なに、わかんな……」
「別に急ぎはせん。指から徐々にな」
「ひっ……」
 女陰を突かれながら、尻穴のとば口を指が浅く出入りする。前が気持ちいいから、後ろの穴も気持ちいいような気になってしまう。
 堪えきれず漏れた嬌声が、室内よりも大きく響く。
「いきたい、出したいよう……っ、お願い、スイ」
「私もそろそろだから……、一緒にいこう」
 いっそう激しく穿ち、レンを追い詰めると、射精を止めていた手が急に離れる。
「はあ……っ」
 椎の幹に向かって勢いよく飛ばす。直後に腹の内で感じる脈動。たくさん出ている。また子種が流れ込んできているのだ。
 ——やっぱりほしい……、赤ちゃん。
 どうか実りますように。
 もうふらふらで、足から力が抜けへたり込みそうになったが、抱きとめて支えてくれた。
「大丈夫か」
「だめ……。立てない」
「そうか」
 身体が宙に浮く。横抱きにされたためだ。意外と高い。
「わー!」
「落とさんから、大人しくしていてくれ。川で身体を洗おう」
 火照った肌に冷たい水が気持ちよかった。

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